電子契約・電子署名って法律的には有効なの?弁護士が分かりやすく解説

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前回の記事では、電子契約・電子署名の基本的な用語についての解説をしました。
今回は、本題である契約書の電子化の方法について解説していきたいと思います。

ようやく本題に入るわけですね!
よろしくお願いします。

契約書の電子化の方法

契約書を作成し、相手方に押印してもらう理由や必要性は前回の記事で解説しましたが、このことはテレワークであっても変わりません。
むしろ相手方と対面せずに契約するので、対面で取引を行うケースに比べて契約書を作成し、押印してもらう必要性は高いと言えます。

もっとも、テレワークと契約書(+押印)の相性は絶望的に良くありません。
紙媒体をやり取りするだけでなく、あまつさえ押印まで必要となると、完全なテレワークの中で契約書を取り交わすのは不可能です。
どうしても、契約書の作成者や押印担当者が出社する必要が生じてしまいます。

そこで、

・契約書やその作成手続をデジタル化できないの?
・電子契約としてはどのような方法があるの?

という疑問が出てきますが、考えられる方法としてはいくつかあります。

(1)メールを契約書代わりとする方法

まず考えられるのは、単純に、相手方とメールでやり取りし、メールのテキストをもって契約書の代わりとする方法です。

例えば、代金は総額いくら・何回に分割・支払日はいつ、といったことやその他の契約条件をメールでやり取りするとします。
メールの中で相手方と合意できれば、当然それによって契約は成立しますし、このようなメールでのやり取りも証拠となります。

ただし、ここで問題となるのは、

・メールだとやり取りしている人間がその名義人本人か分からない
・その契約を締結する権限を持っているのか分からない

という点です。

押印されていれば、社内で決裁が行われているのだろうと推測されますが、メールだけだとその担当者が勝手に合意している可能性もあります。

その為、この方法の場合はテレワークの中で完結することができる反面、「合意内容の証拠化」という意味では契約書に大きく劣り、その後に紛争が生じる可能性も低いとは言い難いです。

また、契約書は多くの場合、ひな型のようなものが利用され、最低限必要な事項について(どちらに有利化はともかくとして)取り決めがされるようになっています。
しかし、メールでのやり取りだと、必要な事項に漏れが生じる可能性もあります。

そのため、これ以外の方法をとれないなどのやむを得ない事情があれば仕方ありませんが、この方法だけで済ませるのはお勧めできません。

現実には、業務委託等において委託のスタートまで時間がなく、契約書を作成する時間がない場合に、とりあえずメール等で最低限の事項について合意(というよりも確認)しておき、委託業務が開始された後に改めて契約書を作成して、その適用期間をバックデートさせる、というようなケースが多いです。

いずれにせよ、一時しのぎといいますか、メールでのやり取りだけで契約書の代わりとするのはNGで、何か他の手段に加えて補助的に用いるという程度が無難かと思います。

(2)押印した書類をPDFにしてやり取りする方法

次に、メールでやり取りするという点は変わりませんが、契約書をPDFにてやり取りする方法があります。

具体的には、
①契約書を印刷
②これに自分が押印
③PDFにして相手に送信

相手方は、
④受信したPDFを印刷
⑤押印した上
⑥再度PDFにして相手方に送信

という方法です。

⑥の時点で、自分の手元には、自分と相手方の印鑑が押された状態の契約書のPDFが来ることになります。
また、PDFにする代わりに、FAXで送信する方法もあります。

欧米では原本主義が強くないため、このような方法も普及しているようです。
日本でも、発注書や請求書などはPDFやFAXで送信する企業は多いです。
そのため、通常時であればそこまで大きな問題はないと考えられます。

しかし、残念ながらこの方法では押印を省略することができないので、企業におけるテレワークでは利用することはできません。
逆に、フリーランスの方であれば、自宅で印鑑を保管しているでしょうから、テレワークの中でも利用することは可能です。

また、PDFであっても内容を変更(改ざん)すること自体は不可能ではないので、紛争が生じた場合における合意内容の証明という観点からは、押印された契約書には一歩劣ることになります。

訴訟で証拠として用いる場面を想定すると、契約書であれば契約書を提出すれば足ります。
しかし、この方法を用いる場合は、⑥で「相手方から受信した内容裁判所に証拠として提出した内容が同一である」ことの立証もセット行うことも考えておく必要があります。

(3)印影を画像データとして挿入する方法

(2)の方法の亜流ですが、予め印鑑の印影をデータ化しておき、契約書のデータの中に印影の画像を挿入するという方法もあります。
自分が印影の画像を挿入したデータを相手に送信し、受信した相手も同様に自らの印影のデータを挿入して相手に返信する、という方法です。

この方法では、現実に印鑑を押印する訳ではないので、紙媒体を扱う必要もありませんし、企業の場合でも出社する必要はありません。
そういう意味では、テレワークに適した方法と言えます。

もっとも、印影のデータというのは誰でも作れますし、印影の画像データは画像データでしかないので、押印されていないのとほとんど変わりません。
そのため、合意内容の証拠化という点では、(2)の方法よりも弱いと言えます。

(4)狭義の電子契約

最後に、狭義の電子契約です。

これは、前回の記事で定義した「電子署名法上の電子署名がされた電子データ」のことを指しますが、電子署名がされていることにより押印された契約書と同じ扱いとなり、「電子署名をした名義人がそのデータを作成した」と認められます(電子署名法第3条)。

電子署名とは、

①電子署名を行った者本人がその電子データを作成したこと(本人性)
②電子データが改ざんされていないこと(非改ざん性)

の2点が確認できるデジタルな措置のことを指します。

今後技術の発展に伴い、様々な方法が採用されていくのだと思いますが、現在は、公開鍵暗号方式と呼ばれる方法、即ち「デジタル署名」が主流です。

公開鍵暗号方式とは ?


秘密鍵と公開鍵というペアの鍵(現実の鍵ではなく、暗号化・復号化に利用するアルゴリズムのことです。)を用いて本人性と非改ざん性を確認・担保する方法です。
秘密鍵と公開鍵とはペアになっているため、ある秘密鍵で暗号化したデータは、その秘密鍵とペアになっている公開鍵でしか復号できません。
逆に、その公開鍵で暗号化したデータは、ペアになっている秘密鍵でしか復号できません。
また、秘密鍵は、その名義人だけが保持していますが、公開鍵は、文字どおり公開されており、誰でも利用することが可能です。

具体例を用いて説明します。

1.【Aさん】自分で作成した契約書のデータ(平文)を秘密鍵を用いて暗号化
2.【Aさん】 平分と暗号の両方をBさんに送信
3.【Bさん】 公開されている公開鍵を利用して暗号化されたデータを復号

復号できれば、その公開鍵とペアになる秘密鍵で暗号化されたということが分かります。
また、復号されたデータと平文とを比べて相違なければ、改ざんされていないことが判明します。

ただし、実際にはインターネットを通じてデータのやり取りをするので、Bさんからすると、その秘密鍵の持ち主がAさんなのかは分かりません。
もしかしたら、Aさんの名を騙る別人かもしれません。
その公開鍵で復号できたということからは、あくまでも「ペアになる秘密鍵で暗号化された」ということしか分かりません。

そこで、Bさんは「その秘密鍵・公開鍵のペアを利用しているのがAさんである」ことを確認する必要がありますが、この本人確認は第三者が発行する電子証明書により行われます。
この第三者は「認証局」と呼ばれ、その公開鍵がAさんのものであるという電子証明書を発行します。
Bさんは、これにより相手方がAさん本人であることが確認できるという訳です。

ざっくりとですが、デジタル署名について説明すると以上のとおりです。
これ以上は、専門的な話に突入していくため、この記事では割愛します。
デジタル署名とは公開鍵暗号方式という仕組みを利用する方法で、これを含む電子署名を利用したのが(狭義の)電子契約であるという程度だけ理解して頂ければ足りると思います。
興味のある方は、電子署名やデジタル署名等で検索してみてください。

さて、狭義の電子契約の概要は以上ですが、デジタル署名が付されたデータは、押印された契約書と同等の効力を有します。
つまり、上記の例で言えば、「そのデータをAさんが作成したこと」が認められます。
(1)~(3)の方法による場合は、やり取りしていた相手方が名義人本人であることの立証が必要となるケースがありますが、「狭義の電子契約」の場合はそのような手間を省くことができます。
これは証拠化という観点からは、大変大きなメリットといえます。

この他にもメリットは多くあります。

一番分かりやすいのは、契約書に比べて、保管スペースが不要である点でしょう。
また、契約書の場合、印紙を貼付する必要がありますが、狭義の電子契約の場合は印紙は不要なので、印紙代を節約することが可能です。
また、紙媒体でのやり取りに比べ、作業効率を上げることもできます。
この点は、テレワークを念頭に置いた場合には分かりやすいと思います。
「押印するために出社する」という手間を省くことができるので、テレワークとの相性は抜群と言えます。

ただしデメリットもあります。

デジタル署名を利用する場合、システムを自ら開発・導入することは困難ですので、様々な事業者が提供しているサービスを利用することになります。

当然、サービスの導入にあたり、それなりのコストがかかります。
イニシャルコストはもちろんですが、毎月の利用料のようなランニングコストも発生します。

また、サービスによっては、自社だけでなく、契約の相手方もそのサービスに加入することが必要となる場合もあります。
つまり、自分がデジタル署名のサービスに加入したからと言って、契約書の全部を電子化できるとは限らないのです。

さらに、契約書や他の方法に比べると、人を選ぶという点もあると思います。
契約書への押印などは(権限的な問題はともかく、物理的な行為としては)誰でもできますが、電子署名を利用するとなると、中には拒絶反応を示す方もいると思いますし、業務の引継ぎ等も複雑になります。
言い換えれば、業務が属人化する懸念があると言えます。

(5)電子署名とタイムスタンプ

電子署名(デジタル署名)と同様の仕組みに「タイムスタンプ」と呼ばれるものがあります。

タイムスタンプとは、認証局がデータに付す日時情報のことで、電子的な証明書の一種と考えてください。
先程の例で言えば、Bさんは、手元のデータと、認証局がタイムスタンプを付したデータを比較することで、

そのデータが、

①タイムスタンプの日時時点において存在していたこと
②タイムスタンプが付された日時から改ざんされていないこと

の2点を確認することができます。

勘違いされることもありますが、タイムスタンプは、電子署名法上の電子署名の要件にはなっていません。
少なくとも、デジタル署名の場合は、それ単独で非改ざん性を確認することができるので、タイムスタンプがなくても電子署名法上の電子署名として認められます。

そういう意味では、タイムスタンプは「電子署名の本人性・非改ざん性を補強するもの」ということができます。

ただし、電子署名法とは別の問題ですが、契約書や領収書等の取引関係文書をデータで保存する場合には、電子帳簿保存法によりタイムスタンプが必要となります。
電子署名法による電子署名とこれによる電子契約とは別の問題ですので、混同しないようにしてください。

各方法のリスクと訴訟実務

以上、電子契約(と呼べる代物かは別ですが)の方法について解説しました。

ちなみに、メールでのやり取りやPDFでのやり取りについては、証拠化の観点から問題があると書きましたが、これはあくまでも「理屈上は」ということです。

例えば、AさんとBさんがメールでやり取りしていたとして、Bさんが「メールを作成したのは自分ではない」と主張したとします。
そうなると、理屈としてはAさんはメールの相手がBさんであることを証明しなければなりません。

しかし、私の感覚としては、訴訟ではどちらかと言えば、Bさんが自分ではないことをかなり高度に証明する必要が生じます。

「Bさんじゃないなら、じゃあ誰?」

という話になりますし、

「Bさん以外の人がメールを作成したとしたら、いつから入れ替わっていたのか?」
「Bさんはそれに気づかなかったの?」

といった様々な疑問が湧いてきます。

Bさんは、これに対し合理的・説得的な説明をする必要があります。

ここで、不合理な説明しかできないような場合には、Bさんの「メールを打ったのは自分ではない」という主張が認められるのは、相当難しいと思います。


これはあくまでも例ですが、メールやPDFでのやり取りを、狭義の電子契約に比べて本人性・非改ざん性の確認が難しいからと言って、それだけで排除する必要はありません。
もちろん、狭義の電子契約が、証拠価値という観点から見て最も優れていることは間違いありませんが、先程説明したようなデメリットもあります。

また、上述した狭義の電子契約以外の方法のデメリットは、ケースバイケースですが、絶対に回復できない程かと言うと、そうではないケースも多いと思います。

そのため、契約(手続)を電子化する際にどのような手法を選ぶかは、相手方との間で紛争が生じる可能性の程度、紛争が生じた場合の影響の大きさ等を考慮して判断して頂く必要があると思います。

何を優先するかにもよりますが、「契約を電子化するためには、狭義の電子契約しかないんだ」というような固定観念を持っていただく必要はありません。
各方法のメリット、デメリットの双方を検討した上で、柔軟に判断して頂ければと思います。