【特集】SNSの闇にせまる第四弾!法改正が悪影響に?改正貸金業法の落とし穴

特集・コラム

前回の特集では、「個人間融資拡大に改正貸金業法の影響がある」という気になるお話を伺いました。

そうなんです。
日本には「利息制限法」と「出資法」という金利を規制する法律が二つあること。
2006年12月に貸金業制度の大改正があったこと。
まずは、前段階として、この2つについて説明させてもらいました。

覚えてます!
2つの法律の上限金利は違うこと。
あとは、法律は変えたけれど、まだ問題が残っていた、、、っていう話をしてもらいました。

そうなんです。
貸金業法が改正されたことによる社会の変調は2007年頃から見られてきました。
前回に引き続き、 2006年に大改正された貸金業制度の話から始めていきましょう。

よろしくお願いします!

貸金業制度2006年の大改正 (続)

貸金業法が改正され、完全施行に向けて金融庁が作業を進めていた2008年6月から、内閣府規制会議は貸金業法の影響について調査を開始しました。

この背景には、2006年秋ごろから2007年にかけて(貸金業法の改正前後ですね)、上限金利引下げを受けて貸金業者が急激な貸し渋りを起こしたこと(図1)による社会現象の変調、つまり法改正の副作用への懸念がありました。

この変調とは、大きく分けると以下の3つです。

①2007年に自殺者数が急増した
②2007年秋頃から生活保護受給者数が一転して増加傾向に転じた
③自営業者を中心とする零細事業主の倒産や廃業が目立ち始めていた
[i]

下の図を見ると、新規成約率がある時期を境にガクッと下がっているのが分かりますね。

図1 消費者金融専業大手7社による過払い金返還額と新規成約率の推移

出典:堂下浩、内田治(2010年9月)「消費者ローン現在利用者の時系列変化に関する分析 Part3」『パーソナルファイナンス学会年報』No.10(2009)

また、規制改革会議での議論で注目される内容があります。

金融庁による貸金業法の議論では、返済困難者の救済に重心を強く寄せていました。

一方、同会議では「返済困難者の救済」に名を借りた安易な過払い金返還請求の実態、そしてそれを促す司法書士や弁護士の動向についても着目。
司法界や信用情報機関からのヒアリング調査なども精力的に進めました。

しかし、2009年7月の政権交代で規制改革会議は完全に停止します。
また、2005年に金融庁が行った、上限金利に関する海外調査が精微さに欠ける内容となってしまった理由なども調べました。

新たに発足した民主党政権下で金融庁は2010年6月の完全施行に向けて準備を進める一方で、「施行前の見直し規定」に基づく意見聴取の場を設けました。

13回目の意見聴取では初めて貸金業者の利用者からヒアリングを行います。
零細事業主は「短期のつなぎ資金なので金利が高くとも負担を感じることはない」と説明するなど、利用者より貸金業者から融資を受けることの合理性を訴える意見[ii]が多く出されていたものの、貸金業法は規定通り2010年6月18日に完全施行されます。

2006年12月に改正された貸金業法の影響がその直後から社会に顕在化し始めたにも係わらず、こうした社会の変調が黙殺された理由として、2008年9月のリーマンショックが挙げられます。

リーマンショックの大波は、貸金業法が起こした社会変調に覆いかぶさりました。
その結果、進行し始めた格差拡大の原因を解明する手立て、つまりその要因分析を難しくしてしまったのです。

ただし、リーマンショックの後も「ソフトヤミ金融」や「カード現金化」の終息が見られない中で、貸金業法の副作用を検証する必要性は政府や国会内で繰り返し提起されたことも事実です。
※この件に関しては、別稿で仔細を史実として報告したいと思います。

貸金業制度改正が与えた悪影響

上限金利引下げの影響

話を2006年に戻しましょう。
先述の図1の通り、2006年秋頃から貸金市場において審査の厳格化が進み、消費者金融会社大手の新規成約率は55%のレンジから30%まで急落しました。

成約率が急減し、貸し渋りも横行していた2007年5月に筆者らが行った利用調査(図2)によると、こんな結果が出ています。

図2 プロフィール別で見た消費者金融との成約状況(図中nはサンプル数。以下同様)

出典:堂下浩(2012年3月)「ヤミ金融の被害についての簡潔な報告」早稲田大学クレジットビジネス研究所

希望通りに融資を受けられなくなった属性を見てみましょう。

職業別で見ると「経営者・役員」、「派遣社員」、「自営業」、「パート・アルバイト」、「専業主婦」
業種別では「運輸業」、「建設業」、「飲食店、宿泊業」、「卸・小売業」。

同時に規模の小さい企業に勤める就労者ほど、借入困難となっていました(堂下(2009))。

特に当時貸し渋りの最も顕著な影響を受けたのが、小規模企業の経営者や自営業といった零細事業主、派遣社員やパート・アルバイトの非正規雇用者、そして専業主婦です。

堂下(2013)がパーソナルファイナンス学会で報告した調査では、以下のような結果が出ています。
消費者金融会社からの借入残高(中央値)を階層間で比較した内容をご覧ください(図3)。

図3 消費者ローンの職業別一人当たり借入残高の推移(零細事業主、派遣社員、そして公務員の比較)

注意1:消費者ローンの職業別借入残高を集計する上でのサンプル数(n数)は、零細事業主において740人(07年)、596人(09年)、109人(12年)、派遣社員において389人(07年)、226人(09年)、23人(12年)、公務員において181人(07年)、183人(09年)、31人(12年)。
注意2:消費者金融利用者へのアンケート調査(2007年5月、2009年5月、2013年1月)。
出典:堂下浩(2013年10月13日)「改正貸金業法が招いた副作用に関する検証」パーソナルファイナンス学会(於 関西学院大学)


以下は、法改正直後(07年5月)と、完全施行後(12年12月)の比較です。

・「零細事業主」の借入残高:法改正直後(07年5月)100万円完全施行後(12年12月)50万円
・「派遣社員」の借入残高:改正直後90万円完全施行後50万円

上記の例はどちらも借入残高が急減していますが、一方そうではない業種もいました。
「公務員」の借入残高は法改正直後で130万円、完全施行後で100万円と減少は小幅に留まっています。

また同時期に行ったヒアリング調査でも、公務員については消費者金融会社からの借入残高を減少させるものの、銀行カードローンの借入残高を増加させていました。

しかし、「零細事業主」や「派遣社員」ではこうした借入の代替は顕著に確認されなかったのです。

海外の研究でも明らかですが、特定の階層で“つなぎ資金”が断たれる、つまり信用格差の発生が格差拡大の導因となる訳です。そして、信用格差の拡大は日本で時間をかけてゆっくり進行していきました。

自民党内で事前に議論されていた格差拡大

ただ、事後に分かったことですが、政策決定の上で見逃せない事実が判明します。

特定の階層が上限金利引下げにより貸し渋りの影響を受け、逆に別の階層が金利引下げの恩恵を受けるという、上限金利の副作用

これについて、実は2006年9月時点で自民党の金融制度調査会では予測され議論されていたのです。

貸金業法が改正された翌年に刊行された雑誌「金融財政事情」は、上限金利を引き下げた場合のシミュレーション結果をスッパ抜きました。
これは自民党の金融制度調査会に“非公式資料”として提出されていますが、その内容は図4の通りです。

図4  否認される可能性の高い社会的属性(2006年9月に自民党で議論された資料)

注意:年齢、性別、学歴など社会的属性(項目)に応じて借り手をカテゴライズし、カテゴリーごとに実際の承認件数と否認件数を割り出す。
そして、①承認より否認の方が統計的に有意に高いカテゴリー、同じ項目内における否認先のシャアが承認先のシェアより統計的に有意に高いカテゴリーをピックアップして、①と②の双方に該当するカテゴリーは上限金利が年利18%以下になると、その承認率が著しく低くなる属性をシミュレーションした結果。


出典:金融財政事情研究会(2007年6月4日)「市場は急速に縮小、ヤミ金融の跋扈と自営業者の倒産に懸念」『金融財政事情』

図4は上限金利規制が、当時の年利29.2%から18%に引き下げられたケースでのシミュレーション結果です。

ここには「否認される可能性の高い社会的属性」が示されています。

これによれば、次のような階層に所属していると、上限金利が年利18%になった場合に貸金業者からの借入れが難しくなると予測されています。

「女性」
「独身子あり(≒シングルマザー)」
「賃貸居住」
「中卒」
「国民保険加入(≒自営業者)」
「労務者」
「社員数10人未満の会社に勤務」
「アルバイト」

が、その階層です。

先の図2で示した法改正直後となる2007年5月に消費者金融の利用者に実施されたアンケート調査結果は、皮肉にも法改正前のシミュレーション結果とほぼ一致した内容でした。

前回の特集で次の2点について触れています。

①貸金業法は公布される際に法律の完全施行前に「法律が円滑に実施するために講ずべき施策の有無を検討する」という規定が附則として盛り込まれていること。

②完全施行前の見直し規定が盛り込まれた法律は日本の憲政史上で唯一であること。

こうした観点を考えると、自民党側は貸金業法の副作用を理解し、世論の冷めたところで上限金利の規制を緩めようと考えていたものの、2009年の政権交代でその機会を逃したとも考えられます。

この辺りの経緯は当時、自民党側の政策担当者であった増原義剛氏(「貸金業制度等に関する小委員会」委員長・増原義剛 衆議院議員(当時))が政界から引退した後、作家の橘玲との対談で触れています[1]。

一方で、同じ与党である公明党の政策責任者は副作用を懸念して上限金利強化に一貫して反対していました。
しかし、最終的に自民党に押し切られる格好で合意しました。

こうして当初から予測されていた階層間の格差は、拡大の方向へと向かって行ったのです。

う~ん。返済が大変な人を助けようとしたら、今度は借りたい人が借りにくくなっちゃった、ってことなんですね。
返済も確かに大変だけど、必要な時に必要なものがないっていうのも困っちゃいますよね。。。

ところで、法改正に関する議論で最後まで疑問に残る点があるんです。

?どんなことですか?
法律改正が進められていた2006年は、貸金業界に対しての世論が盛り上がってたんですよね。

それは事実ですね。
でも、何故こんなにもあっさりと自民党が規制強化に舵を切ったんでしょうか。

確かに、、、なんででしょう。。。

ヒントはその後にバブル化した「社会現象」です。

社会現象ですか!?何かあったかな?
うーんうーん、思い出せません。。。

それでは、次回はその社会現象について説明しますね。

いずれにしましても、今日新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛や休業要請のため、非正規労働者を中心に収入が途絶え、ツイッター上には「#コロナ」とつけた個人間融資の申し出が多く見られています。
こうした局面でこそ、法制度の弊害は露骨に表面化されます。
政府には抜本的な対応を求めるとともに、消費者は安易に「個人間融資 」 に手を出すべきではありません。


[1] 作家・橘玲×増原義剛対談 改正貸金業法は失敗だった! ポピュリズムに毒された政治の敗北(2012年11月27日)

[i] 例えば、中森貴和「CREDIT AGE」『個人事業者の倒産が急増』日本消費者金融協会、2007年5月号、pp.22-27など

[ii] 例えば、「貸金業 短期資金で必要性」日本経済新聞(2010年2月19日)。