新型コロナで営業自粛。店舗の家賃は支払うべき?コロナウイルスと家賃の関係

特集・コラム

連日、新型コロナ関係のニュースが続いてますね。。
百貨店や有名ブランドなどの赤字や経営破綻のニュースを目にして驚いています。

4月から5月にかけて緊急事態宣言が発令されて、営業を自粛していた事業者の方もいましたし、デパートやショッピングモールのように建物自体が閉鎖されたりもしましたからね。
自粛や入居している建物の閉鎖で営業できなかったという事業者の方は影響が大きいと思います。

建物が閉鎖されてしまうと、入っているテナントは大打撃ですよね。。
ちなみに、建物を閉鎖してた期間もテナントって家賃を払わないといけないんでしょうか?
売上が減って家賃の支払いが厳しいテナントも多いかと。

ニュースでも時々見かける話題ですね。
今回は、新型コロナによる経営不振を理由に家賃の減額は認められるのか?をテーマにお話していきます。

貸し借りで発生する義務と権利

賃貸借契約とは?

みなさんは「賃貸借契約」というワードをご存じでしょうか?

「賃貸(借)」という言葉は「賃貸アパート」とか「貸店舗」など日常生活でもなじんだ言葉だと思います。
「賃貸借契約」とは民法601条~622条の2に規定された「典型契約」と呼ばれる契約類型の一つで、簡単にいうと「物を貸して、代わりに賃料をもらう」という契約です。

この「物を貸す」という行為ですが、正確には「ある物の使用及び収益をさせること」を意味します(民法601条)。

つまり、貸主(物を貸した側)は「目的物を使用収益させる義務」を負い、借主(物を借りた側)は「目的物を使用収益する権利」を得ることで「物を貸す」という行為が成立します。

貸主・借主と賃料の関係

レンタカーを例に考えてみましょう。

貸主と借主の契約関係イメージ

レンタカー業者から車を借りたところ、整備不良が原因で運転中にエンジンが止まってしまいました。

レンタカー業者は車自体は利用者に渡しているので、一見すると目的物(クルマ)を貸しているように見えます。
しかし、レンタカーを借りる目的は「車でどこかに行くため」であって、動かない車を借りても意味がありません。
借りた車が全く動かない場合は、利用者は「使用収益」できていないことになります。

レンタカー業者が「物を貸して使用収益させる」という義務を果たしていないことは明らかです。
そのため、レンタカー業者としては、きちんと動く車に交換する、債務不履行に基づいて返金する、場合によっては利用者への損害賠償を支払うなどの対応が必要になります。

このように単に目的物を渡してもらうだけでなく「使用収益する権限」を認めてもらい、実際に「使用収益」をして、それに対して賃料を払うというのが賃貸借の本質であると言えます。

民法上の減額請求

では、本題である「新型コロナによる営業自粛した店舗において賃料の減免は可能なのか?」について話していきましょう。

尚、2020年4月1日から民法が改正されており「2020年4月1日以降に締結された賃貸借契約にのみ適用」されます(改正民法附則34条1項)。
今、問題になっている賃貸借契約のほとんどは2020年4月1日より前に契約されていると思いますので、ここでは改正前民法の条文を前提に解説していきます。

当事者間の合意が必要

まず、借主が貸主に支払う賃料は貸主・借主間の「賃貸借契約」に基づくものですので、賃料は「当事者間の合意によらなければ増減額できない」のが原則です。

ただし、例外として以下のような規定もあります。

賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した割合に応じて、賃料の減額を請求することができる

改正前民法611条1項

条文の中では「滅失したとき」に限定されていますが、先ほどお話ししましたように、賃貸借とは「物を貸して使用収益させること」です。
そのため、「目的物が滅失まではしていないが、使用収益ができない」という場合にも類推適用されると考えられます。

使用収益させられなければ賃料をもらう権利はない

また、危険負担に関して、

当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付を受ける権利を有しない

改正前民法536条1項

としています。

債権者が債務を履行することができなくなった、つまり貸主が目的物を使用収益させられなくなった場合、借主は「反対給付=賃料」を支払わなくて良いということを規定しています。

これら2つの条文は、いずれも貸主が物を貸して使用収益させることができなくなった場合に、借主は賃料を支払わなくて良いということを規定したものになります。
では、これらの条文を踏まえて「賃料の減額請求の可否」について説明していきます。

<予備知識> 借地借家法の適用

余談ですが、建物の賃貸借契約(借家)については民法に加えて「借地借家法」が適用されます。

建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる

借地借家法32条

としています。

これは、経済情勢などの影響で近隣相場と比較して不相当な場合は、賃料の増減を請求できるというものです。
賃料の減額の一つの根拠にはなり得ますが、貸主・借主に関する個別の事情ではなく、一般的な経済情勢を原因とするもので、今すぐにどうこうという話ではないので、細かい説明は省きます。

ケース別で考える減額請求の可否

新型コロナの影響で店舗の売上が減少したパターンとしては、大きく分けると下記の2点が考えられます。

  1. 「建物自体が閉鎖」されて、借主(テナント)はそもそも営業できなかったというパターン
    (ショッピングセンターや百貨店など)
  2. 「自治体からの要請・指示」で営業時間・営業内容の制限により売上が減少したというパターン
    (飲食店等で深夜営業の中止、アルコール類の提供を控えた場合など)

CASE1. 建物自体が閉鎖されて営業ができなかった場合

まず、分かりやすいのは1のケースです。

建物閉鎖の責任が貸主にあるかは何とも言えませんが、少なくとも借主であるテナントに責任はありません

前述の民法を踏まえると、「賃料の支払いを拒絶できる」と考えられます。

ただし、賃貸借契約において閉鎖していた場合の賃料について定められている場合は、それに従うことになります。

CASE2. 自治体からの要請・指示で営業を制限した場合

では、2のケースではどうでしょうか?

借主は、借りた建物の使用収益に制限が生じています。
しかし、これは自治体からの「要請」や「指示」によるものであり、「強制」されたわけではありません。
「指示」に強制力があるかどうかは、人によって意見が分かれるところですので、あくまでも営業を「自粛」しているにすぎず、「使用収益ができなくなった」のではなく「自ら使用収益しなかった」とも考えられます。

過去の判例から考える

次に、過去の判例からも考えてみましょう。

昭和45年に起きた賃料の減額の可否が問題になった裁判例では、

「目的物それ自体を使用収益できているか否かだけでなく、周辺環境も含めた利用価値が維持されているか否か」

という視点で検討されました。
裁判例:(東京地方裁判所判決 昭和45年5月18日判例時報608号151頁等)

つまり、借りた建物自体に変動がなくても、環境変化によって契約の目的に照らして建物の利用価値が減少したのであれば、「使用収益に支障が生じている」のではないかと考えられます。

新型コロナによる自粛要請で考えると、繁華街でも人出が激減して賃料が合意された前提となる「その建物の利用価値」は減少していたと考えることもできます。
この考えを前提にすると、「使用収益」に支障が生じていたとして一定の減額を求める余地があるといえます。

もっとも、建物の周辺環境も含めた利用価値は「借地借家法」が適用される際に検討する要素であり、民法(改正前民法536条1項、611条1項)の問題として捉えるべきではないという見解もあります。

この点は、現段階で裁判例などにおいて結論が出ていないので、どちらの見解が正しいか断言できませんが、少なくとも減額交渉のとっかかりにすることはできると思います。

貸主との減額交渉にあたっての注意点

このように、法的に賃料の減免が認められる可能性はありますが自動的に減免される訳ではありません。
減免を希望するのであれば、実際に貸主と減額交渉を行って合意する必要があります。

ここで、一つ注意点があります。

それは、法的な考え方だけを根拠にして賃料の減免を要求するのはやめた方が良い、という点です。

実際に貸主側からご相談を受けた際に聞いた話ですが、

借主の中には、経営状況を明らかにせずに法律論だけで減額を請求したり、経営努力で対応しようとする前に減額を求めたりと、賃料交渉に臨む姿勢が少し残念であったケースが少数ながらあったようです。

貸主(の担当者)も人間です。

印象が良くない相手に対して、誠実に対応しようという気持ちになりにくいのが人情です。
減額交渉をするなら、例えば「政府や自治体からの給付金も含めて営業努力をしたが、それだけではどうにもならないから賃料をまけてほしい」という姿勢の方が好感度は高いです。
貸主としても、そこまで言われれば賃料について本気で検討しなきゃいかんなという気持ちになります。

また、忘れがちですが貸主側も基本的には賃料を支払ってもらって生活してます。
維持費用や固定資産税なども払わなければなりません。
そのため、ただ「まけてくれ」と言われても応じるのが難しい場合もあり、そのような貸主側の事情も酌む必要があります。

新型コロナの影響は当面続くと思われますので、今後も賃料の問題が生じてくると思いますが、今後、減額交渉に臨む際には、法的な観点だけでなく貸主側の心情や立場も意識していただければと思います。

今回のポイント

  • 賃料の増減は双方の合意が必要
  • 使用収益することができない場合は賃料を減免できる可能性がある
  • 貸主も人間であり賃料収入で生活している。心理面・貸主側の立場も考えた上で交渉すべし