テレワークの悩み~仕事とプライベートの境界線は?【弁護士が解説】

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緊急事態宣言の影響でテレワークが広がりましたが、宣言終了に伴い、テレワークをやめて出社する方も増えてきているそうですね。

私も宣言期間中はテレワークだったのですが、現在は出社しています。
ちなみに、実際にテレワークしてみて思ったのですが、プライベートとの境目が分からなくなるんですよね。。
コーヒーで一服入れるのはOKなのか…お風呂の掃除は良いのか…。

たしかに、境い目を決めないと職務怠慢になる可能性がある一方で、プライベートとの切り替えがうまくできずに精神的に疲れてしまうこともあるようです。
今回は、テレワークでのプライベートとの境界線について話していきたいと思います。

出社とテレワークはどちらも一長一短ですが、会社側は出社してもらった方が従業員の管理は楽だと思います。
実際、テレワークに反対する方は「テレワークだと従業員が仕事をさぼるのではないか」という懸念を持っていることが多いようです。

そこで、今回は「仕事をさぼる」ということ、言い換えれば「在宅勤務における仕事とプライベートの境界」についてお話ししたいと思います。

在宅勤務と勤怠管理の問題

在宅勤務に反対派の言い分としては、「従業員がさぼるかも」「さぼっても分からない」という性悪説的な考え方が理由の一つとなっています。

「さぼる」の定義は人によって違いますし、テレワークの向き不向きもあるので、在宅勤務によって職場放棄や職務怠慢が増えるかどうかは、一概には言えません。
とはいえ、家にいれば勤務時間中でも子供のお世話も必要だし、もしトイレが詰まれば対処をしなければなりません。
そういう意味では、「仕事をさぼる」とまではいかなくても「仕事」と「プライベート」の境界が曖昧になりやすいといえます。

それでは、在宅勤務で勤務時間内に仕事以外のことをしたら、その分の給料がカットされたり何らかの処分対象となってしまうのでしょうか?

雇用契約における「労働」

雇用契約とは

まず、会社と従業員の間では雇用契約(労働契約)を締結します。
雇用契約とは、「当事者の一方が相手方に対して労働に従事」し、「相手方がこれに対してその報酬を与える」という契約を指します(民法623条)。
要するに、従業員は会社の指示に従って労働し、その対価として会社は従業員に給料を支払うということです。

ノーワーク・ノーペイの原則と賃金控除

雇用契約においてはフレックス制のような例外もありますが、予め「労働に従事」する時間が定められていることがほとんどです。
例えば、9:00~18:00(1時間休憩)で1日8時間勤務といった形です。
1日8時間で月~金まで働いて「月給〇円」というのが一般的な雇用契約だと思います。
従業員は、雇用契約で定められた時間を労働に従事することで、対価として給料がもらえる訳です。

逆に、遅刻した場合や欠勤した場合には「労働に従事」していないことになるので、その分の賃金は控除(カット)されます。
「働かざる者食うべからず」ということですが、このようなルールは、労働法上、「ノーワーク・ノーペイの原則」と呼ばれます。
給料が労働の対価である以上、労働に従事していない分の給料がもらえないのは当たり前ですね。

もちろん、トイレに行ったりコーヒーで一服する程度のちょっとした休憩は問題ありません。
また、賛否両論ですが、たばこ休憩も通常の休憩として職場放棄にはならず、賃金控除の対象にはならないのが一般的です。

ポイントは、使用者の指揮命令下にあるのか・離脱しているか、という点です。
これは、始業前の準備時間もそうですが、まだ仕事を始めていなくても「使用者の指揮命令下」にあれば「労働時間」にあたるので給料の対象になるとされています。

例えば、夜勤の仮眠時間や小売店でお客さんがいない時の手待時間も、作業はなくても何かあればすぐに対応しなければならないため、使用者の指揮命令下にあるとして労働時間として給料の対象になります。

誠実労働義務

労働者は、単に定められた時間に何か作業をすれば良いという事ではありません。
雇用契約に定められたとおりの「労働(債務の本旨に従った労務)」を提供しなければなりません。

具体的には、上司からの指示に従って職場の秩序を維持し、集中して労働に従事する必要があります。
これは、誠実労働義務とか職務専念義務と呼ばれるものです。

簡単にいうと、

「上司からの指示や職場のルールに従って、ベストパフォーマンスを発揮しなければならない」

ということです。

体調不良等によって100%のパフォーマンスを発揮できない、という程度は許容されます。
音楽を聴きながらの仕事は、他の従業員とのコミュニケーションに支障を来さないということが前提にはなりますが、音楽を聴くことで仕事の効率が向上するのであれば、問題ないと思います。
逆に、仕事中にスマートフォンで仕事に関係ない動画を見たり、ゲームをしながら仕事をするのはNGです。
ましてや副業(内職)するのは、会社が払う給料で他所の仕事をしている訳ですからもってのほかです。

ただし、多少仕事以外のことをしていても、「使用者の指揮命令下」にあれば基本的には労働時間にあると考えられるので、賃金控除の対象とはなりません。
理屈上は、仕事中に他のことをして「契約上要求される労務を履行できなかった割合」が正確に割り出せるのであれば、その分の賃金をカットできるとも考えられます。
しかし、現実的に割合の算定はほぼ不可能なので、勤務態度の不良を理由に賃金をカットすることはできません。

とはいえ、勤務態度の不良は懲戒事由になることもあります。
給料をカットされないからといって、勤務時間中に他のことをしていいという訳ではありません。

在宅勤務おける労働時間と休憩時間

それでは、これらを前提に在宅勤務中の他の作業等の許容範囲について具体例を挙げて解説していきます。

ケース1~PC前からの離席と仕事中の飲み物~

在宅勤務では基本的にPCの前にいる必要がありますが、離席したからといって直ちに問題になる訳ではありません。
PCを置いている場所の電波が悪いため、在宅勤務中に会社携帯に着信があるとベランダに移動して電話しているという知人がいます。
ベランダでの電話が近所迷惑の可能性?…はともかくとして、仕事をしているので当然職場放棄には当たりません。

また、トイレや飲み物やおやつ程度の休憩も、職場放棄や職務怠慢にならいでしょう。
理屈としては、「会社の指揮命令下から離脱していない」という説明になりますが、難しい説明をしなくても、許容範囲内であることは明らかだと思います。

それでは、お酒を飲みながら仕事をしていた場合はどうでしょうか?

お酒に強い人と弱い人がいるので、作業効率に与える影響は人によりけりです。
例えば、缶ビール1本くらいであればほとんど酔わない(と本人は思っている)方もいます。
しかし、仮に仕事自体に何の影響が生じていないとしても、やはり「誠実労働義務」に反し、懲戒事由になると考えられます。
そもそも本当に業務に影響がないか分かりませんし、仕事中にお酒を飲むという行為自体がNGという社会背景もあるので、仕事中の飲酒が許容されると考える余地はありません。
当然、休憩時間にお酒を飲むのもNGです。

ではノンアルコールビールはどうでしょうか?
微妙な判断になりますが、就業規則等で禁止されていない限りは懲戒事由にまではならないように思います。
少なくとも、アルコール濃度0.00%のものであればソフトドリンクと変わらないと考えられます。
もっとも、ウェブ会議で同僚や取引先の目に触れると、職場の規律や会社への信頼感が損なわれる可能性もあるので、仕事中は慎むべきでしょう。

ケース2~宅配の受け取りや子供のお世話~

PCの前を離れていても、上司からの連絡にすぐ対応できる態勢であれば、「会社の指揮命令下」にあると言えるので、基本的には職場放棄とは言えず賃金控除の対象にはなりません。

例えば、宅配を受け取ったり、PCの近くで子供のお世話をするようなケースです。PCの前を離れて他の作業をしてはいますが、上司や同僚から連絡が来ればすぐに対応できる状態です。
よって「会社の指揮命令下」からの離脱とは言えず、職場放棄には当たらないと言えます。
また、別の作業をしているから誠実労働義務に反しているとも考えられますが、子供が泣いていたり宅配便が来てもこれを無視するという訳にもいきません。
社会通念上、許容範囲内と考えられ職務怠慢とまで評価することもできないと思います。

ケース3~お風呂の掃除~

とはいえ限度はあるので、頻繁にPC前を離れて他の作業をしたり長時間他の作業をするのは、「会社の指揮命令下」から離脱していると評価される可能性もあります。
例えば、勤務時間中にお風呂の掃除をするような場合です。
仕事とは完全に別の作業に従事しているので、会社の指揮命令下から離脱しており、「労務の提供」という債務を履行していないことになります。

ケース1のような「ちょっとした休憩」との境目は、一概には言えませんが、10分程度のたばこ休憩について朗度時間外とした裁判例(東京地判平成26年8月26日)もあります。
10分以上要する作業に従事するためPCの前を離れたケースでは、職場放棄として賃金控除の対象になる可能性があります。
もっとも、上記の裁判例は職場から外の喫煙所に行っていたケースなので、家の中で別の作業をするケースの方が緩やかに捉えられると思いますが、上記のような「ある程度の時間を要する作業」は職場放棄と判断される可能性があります。

また、ケースバイケースですが、家の中でも私用である程度の時間PC前を離れるのはその分仕事をしていないことは明らかなので、職務怠慢として懲戒事由となる可能性が十分にあります。

ケース4~買い物や散歩~

ちなみに、買い物に行ったり散歩に出るのは完全にNGです。
会社携帯を持ち歩いていたとしても、上司からの指示にすぐ対応することはできません。
完全に「指揮命令下」から離脱していると考えられ、賃金控除の対象や懲戒事由となることも間違いありません。

これに対し、家の庭やベランダでストレッチをする程度であれば、先程のたばこ休憩の例からしても、許容範囲内として職場放棄には当たらないと考えられます。
もっとも、頻度によっては職務怠慢として懲戒事由となる可能性もあります。

ケース5~お昼寝~

昼寝はどうでしょうか。
PC前で少しウトウトする程度なら、会社の指揮命令下から離脱したとまでは言えないでしょう。
もちろん、仕事中に昼寝するのはNGなので、頻繁に昼寝するような場合は懲戒事由となる可能性があります。
ただし、一応会社からの連絡・指示に対してすぐ対応できる態勢にはあると言えるので、賃金控除の対象とはならないと考えられます。

しかし、PC前を離れて寝室でぐっすり昼寝したような場合は、指揮命令下から離脱しているので職場放棄として賃金控除の対象と考えられます。

ケース6~動画見たりゲームしながら仕事~

では、PC前に座ったまま別の作業をしているケースはどうでしょうか?
例えば、スマホで動画を見たりゲームをしながら仕事をした場合です。
仕事に100%集中していないことは間違いないですが、他方で上司等から連絡が来ればすぐに対応することは可能です。
そのため、会社からの指揮命令下から離脱しているとまでは言えないと考えられます。
また、動画の閲覧等により労務を履行できなかった割合を算定することも困難なので、労働時間外として賃金控除の対象と考えるのは難しいです。
とはいえ、仕事中に別のことをしていい訳ではないので、懲戒事由になり得ることは念頭に置いておくべきです。

このように、在宅勤務では上司や同僚の目がないので他の作業をしやすいですし、子供のお世話など別の作業を行う必要が生じることもあります。
他の作業をしたからといって、ただちに職場放棄や職務怠慢とみなされる訳ではないですが、程度によっては賃金控除の対象や懲戒事由の可能性もあります。
また、そこまでいかなくても上司や同僚との関係が悪化するということもあります。

皆さんは、くれぐれも仕事をさぼらずに勤務時間中は仕事に集中するようにしましょう。