日本でフィンテックの普及を妨げている要因とは?~トランザクションレンディングのケースから考える~

特集・コラム

フィンテックの文字と男性

すみちゃんはQRコード決済などのスマートフォン決済を利用していますか?

LINE Payとか、PayPayのことですよね。最近お店でよく見かけるので、たまに利用します。 

そうですか。実はこのスマートフォン決済もフィンテックの一種なんですよ。日本はほかの国に比べてフィンテックの分野で後れを取っています。なぜ遅れを取っているのか、「トランザクションレンディング」という事例を挙げて考えていきます。

日本でフィンテックが後れを取っている理由

iPadを操作してグラフが浮き上がる

前号で説明しましたが、米国やイギリスといった先進国に限らず、中国やインドといった成長著しい新興国ではフィンテック(ファイナンスとテクノロジーの合成語)を成長戦略として位置づけ、その育成をはかるための政策を推進しています。

しかし、日本はフィンテックの分野で後れを取っています。その理由を「トランザクションレンディング」と呼ばれる新たな金融手段を事例として取り挙げ、考察していきます。

トランザクションレンディングとは?

パソコンと顧客情報のイメージ

トランザクションレンディングとは、融資先の財務データをあまり重視しない代わりに、取引履歴に基づくキャッシュフローを統計的に分析・与信するサービスです。ビッグデータに基づいた審査モデルである点を除くと、伝統的な事業者金融のサービスと同じです。

海外では、資金需要の盛んな中小企業に、無担保の短期・小口融資を提供するフィンテックの代表的なサービスとして普及しています。そして日本でも、楽天やヤフー、GMO、リクルート、そしてアマゾン・ジャパンといった事業会社がトランザクションレンディングの市場に参入しています。

しかし、日本におけるトランザクションレンディングは立ち上がり期こそ注目されましたが、現在では資金需要者である中小零細企業への融資においてフィンテックとしての本来のメリットを発揮できていません。

その背景には、日本特有の厳しい上限金利規制があります。

トランザクションレンディングの普及を妨げる上限金利規制

積まれたコインとグラフ

トランザクションレンディングに代表されるフィンテック普及の妨げになっている要因として、金利を規制する利息制限法が挙げられます。

利息制限法では、上限金利は「元本10万円未満は年利20%、10万円以上100万円未満は年利18%、100万円以上は年利15%」と規定されています。100万円を20日間貸付けた場合の利息上限は8,000円程度であり、この水準は事業者金融の分野においてほかの先進国には類を見ない極めて厳しい規制となっています。

70年近く改正されていない利息制限法

実は利息制限法は、その前身を江戸時代の「公事方御定書」にさかのぼる“由緒正しき”法律です。直近の法改正は昭和29(1954)年であり、法律にある10万円や100万円といった基準は当時の物価水準に基づいて定められています。

そしてその後、高度経済成長期を経た今日まで、利息制限法は見直されていません。このため、現状の法律は実情に沿っていないという批判が根強いのです。

なお、過去に貸金業法の審議過程で利息制限法の改正案が検討されたことがありました。当時自民党の法改正責任者であった増原義剛氏(当時・衆議院議員)は、「1954年法制定当時、10万円未満は個人、10万円以上100万円未満は中小企業、100万円以上は大企業との想定だった」と利息制限法改正の必要性を説明していました。

トランザクションレンディング、2社の先行事例

このように国内の厳しい規制の中でも、トランザクションレンディングの先行事例はいくつか存在します。

<トランザクションレンディングの先行事例>

サービス名利率(年利)手続き期間返済期間
アマゾンレンディング8.9%~13.9%最短3営業日3か月 /6か月
楽天スーパービジネスローン・エクスプレス8.5%~14.5%最短翌営業日1か月~36か月
JNBストアローン(Yahoo!)3.9%~8.2%最短翌営業日3か月~ 6か月
GMOイプシロン トランザクションレンディング3.5%~12.0%最短5営業日6か月
リクルートファイナンスパートナーズ3.0%~15%最短当日1、3、又は6か月

ここからは、トランザクションレンディングのサービスを手掛ける2社を筆者が訪れた際のインタビュー調査の結果をご紹介します。

【先行事例A社】

出品企業のキャッシュフローに着目して、多少バランスシートに問題があっても、直近売り上げとトランザクションデータから得られた過去の取引履歴で主に審査して融資を行っています。かつて「街金」と言われた事業者金融のビジネスモデルと似ています。

特にニーズがある企業として、創業間もない企業、債務超過を起こしているものの商売の利益率が高い企業などが挙げられます。

また、当社の融資は高金利であるものの、メインバンクが既に入り込んでいる企業からもニーズはあります。優良な中小企業にとって、メインバンクといっても融資実行までに時間が必要になるため、当社のトランザクションレンディングのほうが重宝されているのでしょう。

トランザクションレンディングの貸し倒れ率は5%以下です。借入残高は平均360万円で手軽さが好評でリピート率が高くなっています。一方で、数千万円を借りて貸し倒れる事態もあります。現在、資金繰りの悪化を予兆する現象を信用情報機関のデータを補いながら把握しようと努めています。

審査では会社の決算書を重視しませんが、直近の売り上げ動向を精査し、同時に社長個人の信用情報を照会します。そうすると、社長が個人名義のカードでかなりの借入残高があることがわかり、融資をお断りするケースが多数あります。

金利規制が緩和されれば、商品選択に幅を持たせることが可能になります。現在は最短でも数日後の融資となりますが、金利設定に柔軟性が確保されれば、簡易的な審査を経て即日数分後に振り込むこともできます。

併せて即日返済もできるのであれば、潜在化している資金需要を呼び起こし、中小企業のビジネスチャンスを拡大させることに役立つでしょう。

【先行事例B社】

企業規模の小さい企業ほどニーズが高くなっています。融資実行までの時間が短く、消費者金融よりも融資額が大きいといった点が顧客に評価されています。

営業はeコマース(ネットを介した商品売買市場)に出店している全ての企業を対象としていますが、申し込みでは特定の業種に偏りはありません。むしろ創業して間もない企業からの申し込みが多くなっています。銀行と取引がない中小企業からの申し込みは多くありますが、それでも資金の使い道は事業性短期資金が中心です。

融資金額は300~400万円程度がほとんどです。消費者金融と異なり金額も大きいので、トランザクションレンディングはそれなりにリスクが存在し、ハードルは高いですが、ニーズは確かにあります。このサービスを普及させるうえで、金利規制の緩和は有効といえます。

ただし、フィンテックでの融資は対面与信ではないため、どうしても審査が甘くなってしまいます。大量データを高度な情報技術で分析したとしても限界があるため、与信に際して経営者個人の信用情報を照会・登録することを義務付ける必要があるでしょう。

先行事例が示唆すること

上記の事例が示唆する点としては、

  1. つなぎ資金の需要は盛んである
  2. 迅速な融資実行が顧客から評価されている
  3. 創業間もない企業からのニーズは高い
  4. 資金需要は300~400万円程度と企業向け金融としては小口
  5. 審査力を向上させるうえでトランザクションデータと経営者の信用情報を併用することが有効

などが挙げられるでしょう。

さらに、中小企業金融の一翼として期待されるトランザクションレンディングを国内に根付かせるための金利規制の緩和が期待されています。

実際、海外でトランザクションレンディングを手掛けている会社は、海外で最も資金需要が旺盛な3か月以下の取引が厳しい金利規制下の日本国内では赤字となるため、できれば短期の取引から撤退したいと語っていました。

先述した通り、トランザクションレンディングをはじめとする100万円以上の融資に上限金利として年利15%が適用される現在の規制は、短期小口融資を技術的に可能とするフィンテック普及の足かせになるだけでなく、そもそもリスクの高い事業性短期融資には合わないでしょう。

日本でフィンテックが普及するには、法改正なども必要になるということですね。

日本の実情を受けて、日本銀行や金融庁が事業者金融分野における法改正の必要性を議論していました。しかし現状、その議論は停止しています。次号ではその推移を説明したいと思います。


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